shidouofthedeadの日記

日々の雑文帳

板の上の魔物

劇場には魔物が住んでいる
さよなら公演を終え歌舞伎座がビルに建て替えられたあの時、
不思議なことに数々の名優がこの世を去った。
魔物が連れて行ったんだ。そう思わずにいられなかった。

当時、大好きだった名脇役者が亡くなったと昨夜知った。
今頃、あの時連れて行かれた名優たちに
「やっと来たか」と迎え入れられているのだろうか。
そんなことを一日考えていたら、遠く離れたブロードウエイでは昨日「オペラ座の怪人」が幕を降ろしたらしい。なんなんだ? この偶然。

 

「板の上の魔物」を初めて聞いたとき、頭に浮かんだのが歌舞伎座の魔物とオペラ座の怪人だった。
後にこれは漫才の板の上であり
ラップバトルのステージでもあることを
理解するわけなのだけれども。

この曲で自分のつまらない人生を全部置いていくから食らえと魔物に差し出し
いつか魔物を手なずけると言っていた青年が先日、
自分の連れ合いとなった人が自分を人間に戻してくれようとしてる。と言ったのを聞き衝撃を受けた。
彼は魔物を手なずけ、愛されるために自らモンスターになろうとした。ならざろうを得なかった。
その話を聞いたときも同じ衝撃を受けたのを覚えている。

そんな彼が「人」に「戻ろう」としてる。

果たして彼はモンスターだったのか?
私たちがそんな彼を求め、
それが彼なんだと思い、括っていたのではないだろうか。

そのことばを聞き「よかったね……」と何とも言えない気持ちになった。
反面、モンスターである彼をどこかで求めているところもあってそのせめぎあいが心の中で起きている。
彼を人に戻そうとしてる連れ合いに嫉妬しているところもある。
だって、わたしたちは彼を人に戻すことができないのだから。
永遠に奇跡であって欲しいと願っているところがどこかしらあるのだから。

反面、彼は連れ合いを得てからというもの何とも言えない色気を放っている。
それは多分、姥皮の中の自分を晒せる相手を得た、敬愛を得た自信と余裕から溢れ出たものなのだろう。


でもね、これがまた板の上で妖艶となって
怪物に拍車かけてたりもするんですよ。

 

ファンっていうのは勝手なもんでやっぱり、
推しはバケモノであって欲しくもあるし
ひとりの人間であって欲しかったりもするし……
でも、そのグレーはグレーで良いのかもしれないな。
どっちかを強要することなく、その境界線を遠くから見守る感じ。
人は括れないし、括ってしまってはつまらないから。

さて、長年、歌舞伎座天井桟敷で演目を見続けた私はそのせいか間近でよりもちょっと離れたところから演者たちの発する力や光を演者と観客のアクションが大きな波で行き来するのを全身で感じることをLIVEの醍醐味だと思うようになったのだけど、
こんな風に魔物に魅入られた彼を眺め、愛し、惑い、翻弄され、劇場にホールにライブハウスに足を運んでしまうのはもしかして、私も気付かぬ間に板の上の魔物に取り込まれ操られているのかもしれないななんて思ってもいるわけで。まぁ、それはないか……。