shidouofthedeadの日記

日々の雑文帳

透明人間

高校の頃、私は不登校児だった。
いじめにあってたわけではない。
中学生の私は母親の言うことを守り、学校の言うことを守り、ただ、授業を暗記するだけで勉強ができた優等生だった。

単に自分がなかっただけだ。
周りの言うことを吸収するだけ。
自分で何かをすることは出来ない子だった。自分の顔がなかった。

第一志望の公立高の受験を失敗し、
私立の超進学校に進んだ。
母親の「顔」でなんとか回っていた地元の小学校や中学校と違い、
母親の威光は届くことなく
顔がない私は学校に馴染めず、教師に馴染めず、勉学に馴染めず、友に馴染めず、何処にも自分の場所を持てず、胃痛を抱える様になり学校へ行けなくなった。
私は孤立し存在は薄れるばかりだった。
今考えると他の級友から見れば地味で得体の知れない気味の悪い子だったろう。
何せ、顔がないのだから。

母の好みで三つ編みだった私がある日バッサリとショートに髪を切ったことがあった。
気分を変えて久々に登校した私を他のクラスからやってきて「面白いモノがあるって聞いて」と聞こえよがしに言ってマジマジと眺めて帰った子がいた。
その言葉の何よりもああ、私は「モノ」だったんだなと言うことが心を刺した。

学校へ行かない私に母親が包丁を向けたことがある。わたしは抵抗することなく「殺してください」と頼んだ。消えてしまいたかった。

子どものころから物語を書いていた。それが唯一の私の存在する意味だった。それだけが自信だった。
その自信を守るために進学先を選んだ。就職先も選んだ。しかし、自分で選んだ道はことごとく私を拒み、というか実力が伴わず、最終的には母親の持ってきた仕事に就いた……まぁ、それがそれ以降の仕事の基礎になるし、そこに進んだから母親を裏切って私は自分の足で立ち自分の道を自ら歩ける様になるのだけども。

物語を描くことで自分の顔を得た私はペンと紙さえあればその顔を守ることが出来ると信じていた。一生、描き続けると思ってた。

しかし、私は子どもが生まれるとペンと紙を側に置いた。

本当に描きたいなら家宅の人になればいい。夫に言われた。
でも、私にはそれができなかった。
時が来ればまた書ける。他人はそういう。
しかし、時が経てば一度置いたペンは錆び紙は朽ちる。

私は母親と言う仮面をもらって、また顔を失った。
否、顔を得たつもりでいたけれど、ずっと、私はあの頃の顔のないままだったのに
ただ錯覚していただけだったのかもしれない。

いつの間にか顔がないことに慣れ
気配すら消す様になった私はあまりにそれに慣れ
それに甘え、安堵し
自分が見えないことを忘れることすらあった。

そう、私は透明人間だったのだ。

Creepy Nutsの「友人A」を初めて聞いたとき、私は無意識に泣いていた。
君には見えない……私は誰にも見えない。

調子に乗るとそのことを忘れてしまう。
なんで、私をみてくれないの?
私はここに居るのに……ここにこうして居るのに。
私は忘れていたのだ。自分が見えないことを忘れて泣いていたのだ。

貫け透明人間!
透明人間のくせにうるさいぞ!

空元気に自分に発破をかける。
何を期待してたの。何を待ちわびてたの。
物語は書けないくせに絵空事ばかり描いて。

私は忘れて泣いていたのだ。
もう忘れないようにしよう。
私は見えない。あなたには見えない。